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Seitosha Publishing

2019年4月のエントリー 一覧

9784862281012.jpg著者:和田春樹
ISBN:978-4-86228-101-2 C0031
定価1500円+税 188ページ
ジャンル[外交・国際問題]
発売日:2018年11月22日


紹介
安倍政権のアキレス腱、拉致問題。
安倍政権はいかにして、制裁を強化すれば北朝鮮が崩壊するという佐藤勝巳氏ら「救う会全国協議会」に支配されるようになったのか。

「拉致問題は日本の最重要課題」「拉致問題の解決なしには国交正常化はない」「致被害者の全員生存・全員帰国」を掲げ、硬直する『安倍三原則』。
これに固執し続ける限り、金正恩委員長と会談は不可能。

・拉致問題の歴史と被害者・家族たちの過酷な運命を改めてふりかえる
・小泉元首相の平壌宣言による前進と、その後の決裂
・転換の時を迎えた日朝関係。平和と協力の新時代を開くためには、実行可能な解決方法、可能な限りの事実の解明に基づいた新しい関係が必要


「発想の転換だ! 歴史的背景から説く。全員生存・帰国を唱える安倍首相。拉致問題存続が政権の生命線では実現不可能」──蓮池 透〈元家族会事務局長〉

「この10数年、日本は変質した。原因の一つとなった日朝関係の全貌を知るのに本書は最適のテキストである」──青木 理〈ジャーナリスト〉



目次
I あらためて拉致被害者17人の悲痛な運命を考える
II 日朝首脳会談の成功と逆転
III 再度の首脳会談も空しく終わった
IV 敵対行動開始の安倍3原則
V 安倍3原則がストックホルム合意の実行を阻んだ


著者プロフィール
和田 春樹(わだ・はるき)

東京大学名誉教授。1938年生まれ。東京大学文学部卒業。
著書『金日成と満州抗日戦争』(平凡社、1992年)『朝鮮戦争全史』(岩波書店、2002年)
『朝鮮有事を望むのか』(彩流社、2002年)『北朝鮮本をどう読むのか』(共編著、明石書店、2003年)
『検証日朝関係60年史』(共著、明石書店、2005年)『日露戦争 起源と開戦』(上下、岩波書店、2009-2010年)
『拉致問題を考えなおす』(共編著、青灯社、2010年)『北朝鮮現代史』(岩波書店、2012年)
『平和国家の誕生』(岩波書店、2015年)『スターリン批判1953~56年』(作品社、2016年)
『アジア女性基金と慰安婦問題』(明石書店、2016年)『米朝戦争をふせぐ』(青灯社、2017年)


まえがき
 日朝国交促進国民協会は二〇〇〇年九月に設立された。会長は村山富市元総理である。創立以来すでに一八年が経過したが、国民協会の活動は貧弱な域を出ることなく、日朝国交はいまだ実現していない。
 二〇一六年、一七年には、米朝の対立が極限に達し、われわれは米朝戦争が起こるかもしれないという恐怖を味わうまでにいたった。安倍首相がその状況の中で、「すべての選択肢がテーブルの上にあるとする米国の政策を完全に支持する」と言い、朝鮮有事のさいの米国の軍事行動に協力する姿勢を示したことは、われわれの憂慮を強めるばかりであった。
 だが、極限にまでいたった対立の瀬戸際で、トランプ大統領と金正恩委員長は危機の果てをみすえて、踏みとどまった。そして、文在寅韓国大統領の先導で、平昌オリンピック大会を契機に、歴史的なシンガポール首脳会談に向かったのである。対話と協力を通じて、新しい米朝関係、朝鮮半島の完全なる非核化をつくり出す、苦しみと希望がまざりあう新時代がはじまろうとしている。
 中国も、ロシアも、この過程に参加している。日本も参加しなければならないし、日本が参加して、支えなければ、過程の進展がおぼつかない。だのに、安倍首相は急変した事態の中で立ち往生している。安倍首相は金正恩委員長に会いたいと言っても、会うことができず、トランプ大統領に拉致問題を金委員長にとりついでくれるように頼むだけであった。このままいけば、来年はじめにトランプ大統領が二回目の米朝首脳会談を行うさい、拉致問題をとりあげてほしいと、ふたたび懇願することになるだろう。
 安倍首相は金正恩委員長に会談することを本心で願っているのなら、両国が共通に課題とする日朝国交正常化を進める交渉を行いたいと申し入れる他はない。拉致問題は、日朝国交正常化を進める交渉の中でのみ、交渉することができるのである。
 だが、安倍首相は、このときにいたっても、金委員長と会って、拉致問題を解決したいとくりかえすばかりである。それも当然のことである。安倍首相は、拉致問題への取り組みによって首相になった人であり、二〇〇六年に最初の内閣で、拉致問題が日本の最重要問題であると宣言し、内閣挙げて拉致問題対策本部をつくり、安倍三原則を打ち出して、拉致被害者全員を生きたまま取り戻すという努力を開始したからである。二〇一一年に自民党総裁、日本国首相にカムバックしたさい、被害者家族に対して、「なんとか拉致問題を解決したいという使命感」をもって、「もう一度総理になれた」と語った人であった。安倍氏はこのように「拉致ファースト」の政治家なのである。
 安倍首相がはじめた日本の対北朝鮮放送「ふるさとの声」は、二〇〇七年七月九日から今日まで、「拉致問題が国家主権と国民の生命安全に関わる重大な問題である」、「その解決なくしては北朝鮮との国交正常化はないとの方針を決定し」たと毎日六回放送してきた。拉致問題で北朝鮮を徹底的に追い詰めるというこの政策は、「すべての選択肢がテーブルの上にある」という米国の軍事的威嚇政策に同調して、核問題で北朝鮮を徹底的に追い詰めるときまでは、調和があり、矛盾が露呈しなかった。
 しかし、トランプ大統領と金正恩委員長が握手して微笑んでいる大きな写真の前では、安倍首相の「拉致ファースト」政策は完全に行き詰まり、お手上げになってしまった。安倍首相は「拉致ファースト」政策、安倍三原則を捨てないかぎり、金正恩委員長と会談することはできないであろう。金委員長と会談ができなければ、拉致問題を進展させる交渉はできない。交渉しなければ、解決はありえないのは明らかだ。かつては、米朝戦争が起こって、自衛隊が北朝鮮に入り、拉致被害者を救出してくるということを夢見た人がいたようだが、いまやそのような夢を見ること自体が不可能になったのである。
 安倍首相の「拉致ファースト」政策、安倍三原則は、日本国家の方針であり、日本国民が支持してきたものであるとすれば、国民がこの政策、この原則を見直さなければならないと言わねばならない。本書はそのために書かれた。
 日朝国交促進国民協会は二〇〇八年一二月から翌九年五月までに一〇回の連続討論「拉致問題を考える」を開催し、その成果を二〇一〇年に蓮池透・和田春樹・菅沼光弘・青木理・東海林勤『拉致問題を考えなおす』(青灯社)として出版したことがある。
 このたびは、二〇一八年六月二九日から七月二七日まで毎週金曜日夜三時間の連続講座、理事和田春樹の「拉致問題についての五講」を開催した。第三回には、元民主党衆議院議員首藤信彦氏の講義も行われた。全五回の講義の記録が参加者の一人の献身的努力でまとめられた。和田がそれに大幅に加筆、修正を加えて、本書となった。首藤氏の講義は感銘深いものだったが、刊行の都合で、収録できなかった。また質疑も割愛せざるをえなかった。
 本書が、拉致問題について国民が今一度考え直すのに助けとなれば幸いである。

副題:平和国家日本の責任

20170930.jpg

著者:和田春樹

ISBN:978-4-86228-096-1 C0031

定価1200円+税 116ページ

発売日:2017年9月30日

 

紹介

「日朝国交正常化に踏みきるべきだ。そうすれば、米国、北朝鮮、日本、韓国、中国、ロシアを救うことができる」

村山富市氏(元首相)、小此木政夫氏(慶應義塾大学名誉教授)推薦! 
多くの識者・専門家がテレビでは言えなかったこと、日朝国交正常化の必要性を説く

◆冷戦がおわり、ソ連が崩壊した後、北朝鮮は、米国との対峙のため核兵器をもつこと、日朝国交を正常化することを求めた
◇朝米関係は危険な敵対関係に入った。このままいけば、米朝戦争になりうる
◆米軍が日本海から北朝鮮にミサイルを大量にうちこめば、北朝鮮は在日米軍基地を攻撃する
◇米朝戦争をとめないと、日本も北朝鮮も韓国も廃墟となる。東京オリンピックはできない
◆米朝戦争をふせぐには、日本は米朝のあいだに体を入れて、平和外交をやるほかない。その手段は、日朝国交樹立、日朝交渉の開始である
◇オバマ大統領の「無条件キューバ国交樹立」は日朝国交正常化にとって最善のモデル
◆拉致問題を本当に解決するための長期交渉のためにも、オリンピック開催に絶対の条件である地域の平和の確保のためにも、日朝国交正常化が不可欠

 

目次

I 北朝鮮危機と平和国家日本の責任
II 北朝鮮問題をめぐって著者にきく
資料


著者プロフィール

和田 春樹  (ワダ ハルキ)

東京大学名誉教授。1938年生まれ。東京大学文学部卒業。歴史家。日朝国交促進国民協会事務局長。
著書『金日成と満州抗日戦争』(平凡社、1992年)、『朝鮮戦争全史』(岩波書店、2002年)、
『朝鮮有事を望むのか』(彩流社、2002年)、『北朝鮮本をどう読むのか』(共編著)(明石書店、2003年)、
『検証日朝関係60年史』(共著)(明石書店、2005年)、『日露戦争 起源と開戦』(上下)(岩波書店、2009-10年)、
『拉致問題を考えなおす』(共編著)(青灯社、2010年)、『北朝鮮現代史』(岩波書店、2012年)、
『平和国家の誕生』(岩波書店、2015年)、『スターリン批判1953~56年』(作品社、2016年)、『アジア女性基金と慰安婦問題』(明石書店、2016年)

著者:山岡憲史
9784862281050.jpgISBN:978-4-86228-105-0 C0082
定価1800円+税 272ページ
ジャンル[英語]
発売日:2019年3月30日


紹介
英語のしくみにもとづいて開発された「話せる英語」の決定版!
表現を身につけ、英語を話す自信がつく

本気で英語の力をつけたい人、勉強を始めようと思っている人のために。
動詞を中心とした文構造に沿って、自然な理解を深めながらさまざまな表現を学ぶ。
社会人や大学生、四技能試験を控える高校生をはじめ、英語力を伸ばしたいすべての人へ!

例)p.54
うまくいく──
〈順調にいく〉go well
─Everything went well with him.(彼にはすべてがうまくいった)
〈方法などがうまく機能する〉work well
─Our plan worked very well.(私たちの計画はとてもうまくいった)
〈事はとても順調に進んだ〉Things went very smoothly.
〈うまくいかない〉go wrong
〈薬が頭痛に効く〉work on your headache

─How is it going with you?(調子はどう?)
─Pretty good.(まあまあだね)

著者は第54回読売教育賞外国語部門 最優秀賞受賞。


目次
Ⅰ 文型編
・S(主語)+V(動詞)
 働く/仕事をする 行く/来る 帰る/帰宅する 通う/通勤する など
・S(主語)+V(be動詞)
 ある/いる 出身である 間に合う 健康である/健康がすぐれない など
・There is/are +S(主語)
 …に~がある[いる]
・Here is/are +S(主語)
 ここに~がある[いる]
・S(主語)+V(be動詞)+C(補語) これが[この人が]~です あれは[あの人は]~です それは~です など


Ⅱ 文法編
・助動詞
 できる ~かもしれない (時として)ありうる ~してもいい など
・不定詞
 ~するために ~して(嬉しい) ~するための… たまたま~する など
・原形不定詞 …に~させる ~するのを見る/聞く ・Itの構文 ~するのは難しい/易しい ~とはご親切に ~ということは本当だ など


Ⅲ 機能編
 依頼・要求する 提案・助言する 申し出る・勧誘する 謝る・同情する など

 

著者プロフィール
山岡 憲史(やまおか・けんじ)
1978年神戸市外国語大学外国語学部英米学科卒業。
滋賀県の公立高校教員28年勤務の後、2006年より立命館大学教授として現在に至る。
専門は英語教育、英語学。英語の4技能を伸ばす指導方法を研究。
2005年第54回読売教育賞外国語教育部門最優秀賞受賞。
2008~2013年 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会 外国語専門部会委員。
主な著書に『ジーニアス英和辞典 第2版』(共著、大修館書店)、
『グランドセンチュリー和英辞典 初版・第2版』(共著、三省堂)、
『文部科学省検定教科書 Departure 英語表現I・II』(共著、大修館書店)、
『ジーニアス総合英語』(共著・大修館書店)、『英語長文演習 Applause Vol. I~IV』(共著、美誠社)
『アクティブ英単語2100』(共著・学研プラス)。
『実用英語講座2級クラス・準1級クラス・1級クラス』(日本英語検定協会)監修。

[英文校閲]John P. Foster
20年間日米の大学で英語教育に携わる。
関西外国語大学、立命館大学を経て、現在、同志社女子大学と関西大学に勤務。


 

まえがきより
 英語はできるようになりたいけど,文法は学びたくない」──だから文法を勉強しなくてもペラペラになれたり,毎日少しずつ聞き流すだけで高い英語力がつけられたりすれば,こんなにうれしいことはありませんね。

でも,英語のしくみを学ばずに英語が自由に話せるようになるでしょうか。日本語なら,まわりに言葉があふれていますから,間違えながら自然とことばを身につけていけますが,英語はそうではありません。だから,毎日少しずつ聞くだけで,アメリカの赤ん坊がことばを習得するように英語を自由に話せるようになることはありえません。日常的な言い回し程度は身に付けることはできても,踏み込んだ話ができるようには決してなりません。英語を本当に身に付けたいと思うなら,やはり勉強することが必要なのです。「努力なしにペラペラ」といった安易な方法ではなく,しっかり学ぶことこそ話せる英語へのほんとうの近道です。

副題:[ミスター文部省]にみえること

20171110.jpg著者:寺脇 研
ISBN:978-4-86228-097-8 C0037
定価1600円+税 228ページ
発売日:2017年11月10日

 

紹介
国民統制をはかり、教育行政への介入を急速に進める政権。
今の日本に本当に必要な教育の姿とは?
◇「詰め込み」ではない「ゆとり」教育は、ポスト近代の「生きる力」の要請でもあった。
◆「総合的な学習の時間」は自分で考える生徒を生み、「ゆとり以前」には
 考えられなかった成果を見せはじめている。
◇グローバル時代・高齢化に向けての専門教育と生涯学習──「学びの伏線化」。
◆歴史教科書の採択、道徳教育の教科化、教育委員会への首長の権限強化──
 政治の道具と化した教育を、人びとの手に取り戻すために。
◇若い世代に根付きつつある、「未来を自分たちの手で」決める問題意識。

ゆとり教育と生涯学習を推進し、〈ミスター文部省〉とよばれた著者が明かす、
当時と今の教育をとりまく状況と官僚としての想い、これからの日本の教育の展望!



目次
第1章 グローバル時代の必然、「ゆとり」教育と「生涯学習」
第2章 国民統制をはかる政権、どうする? 官僚
第3章 安倍政権以降、なにがおかしくなったのか?


著者プロフィール
寺脇 研  (テラワキ ケン)
京都造形芸術大学教授。1952年、福岡県生まれ。東京大学法学部卒業。
75年、キャリア官僚として文部省に入省。在任中は生涯学習政策、「ゆとり教育」等を推進。メディアでは「ミスター文部省」と呼ばれた。映画評論家としても活躍。
著書『韓国映画ベスト100』(朝日新書、2007年)、『「官僚」がよくわかる本』(アスコムBOOKS、2010年)、
『「学ぶ力」を取り戻す 教育権から学習権へ』(慶應義塾大学出版会、2013年)、『文部科学省 「三流官庁」の知られざる素顔』(中公新書ラクレ、2013年)、
『これからの日本、これからの教育』(前川喜平と共著 ちくま新書、2017年)ほか



 

まえがき
文部科学省を辞めて一一年が経つ。

定年まで勤めていれば七十代に入っているところだが、早々に退職勧告を受けたおかげで、また、役所の斡旋する再就職(その当時は適法だった)を断ったために、自由な立場になって一一年過ぎても、まだやっと前期高齢者の仲間入りをしたばかりだ。頭も身体もしっかり動く。
その間、映画や芝居、マンガの分野でいろいろな活動を楽しんできた。もともと、高校時代から映画評論を書いて映画評論家になり、役人時代も映画界の人々と付き合っていたし、演劇、マンガも愛好していたとはいえ、表現の自由がある文化の世界でのびのび活動する醍醐味を味わっている。映画『戦争と一人の女』(二〇一三)、『バット・オンリー・ラヴ』(二〇一六)、舞台『グレイッシュとモモ』(二〇〇八)、『ゴールデン街青春★酔歌』(二〇一五)のプロデュースで、実作にも携わった。

とはいえ、もちろん教育のことを忘れたわけではない。京都造形芸術大学をはじめ、東北芸術工科大学、星槎せい さ大学などいろんな大学で学生たちに授業するだけでなく、学校以外の学びの場として〇九年に「カタリバ大学」を作り、月一度のペースで開催してきた。こちらは、中学生から七十代までの幅広い学習者が多様なテーマを取り上げ議論する。政策を立案する役人から、学校教育、社会教育のプレイヤーに転じて「いつでも、どこでも、誰でも学べる」生涯学習社会作りに挑んでいるつもりだ。
一方で、元役人として教育政策の動向も気になる。退職と入れ替わりに第一次安倍政権が誕生、福田、麻生、民主党に政権交代して鳩山、管、野田とめまぐるしく首相が交代した後、第二次安倍政権が五年の長期に及んでいる。考えてみれば辞めてからの一一年間、半分以上が安倍政権なんですね。

この間、〇八年に橋下大阪府知事が誕生したこともあって、教育政策は大いに揺れている。やむにやまれず、わたしも民間の立場でさまざまな発言を行ってきた。その内容は、第一次安倍~麻生政権時代を「二〇五〇年に向けて生き抜く力」(二〇〇九 教育評論社)、主に民主党政権時代を「『学ぶ力』を取り戻す」(二〇一三 慶應義塾大学出版会)にまとめてある。
だが、第二次安倍政権になってからの動きは、もっと急だ。道徳の教科化、教科書問題、教育委員会制度改革、学習指導要領改定など戦後の教育制度を根本から変えるような大改革が、「政治主導」「官邸主導」の名の下に矢継ぎ早に出てきている。油断していると、この国の教育の在り方がどの方向へ行ってしまうか見当がつかなくなってしまう。

しかも、「政治主導」「官邸主導」が文部科学省のみならず霞ヶ関全体の官僚を萎縮させている。内閣人事局が創設され、官邸が幹部官僚全体の人事権を握った結果、その意向を窺うことに汲々とする空気が蔓延しているようだ。わたしが現役だった頃とはまったく違ってしまっている。
「忖度そん たく」という言葉を一躍流行語にしてしまった森友学園問題では、自他共に認める「官庁の中の官庁」だったはずの財務省の官僚たちが国会答弁で「記録にない」を連発し、国民の前にぶざまな姿をさらさざるを得なかった。彼らの誇りはどこへ消えてしまったのだろうか。大蔵省、後には財務省と予算折衝などで何度も交渉し、その能力と公平公正さを尊敬していたわたしには、見るに忍びないものがある。

加計学園問題では、官邸とその意を体した内閣府の役人が「総理のご意向」を笠に議論を一方的に封じ込め、懸命に抵抗する文部官僚を蹂躙した経緯が明るみに出た。この有様は、単に教育行政が歪められたにとどまらず、日本の行政機構全体の危機だと言えよう。今こそ官僚が奮起しなければ、民主主義の基本である「司法、行政、立法」の三権分立のうち「行政」の一角が崩れてしまう。それは同時に、民主主義の崩壊なのだ。
この本では、教育の問題、官僚の在り方の問題について、わたしの眼に見えるものを率直に綴っていきたい。教育の未来、行政の未来を考えるきっかけになれば幸いである。

副題:手術や抗がん剤、放射線ではない画期的治療

20170825.jpg

著者:永山悦子/協力:小林久隆

ISBN:978-4-86228-095-4 C0047

定価1200円+税 240ページ

発売日:2017年8月25日

 

紹介
オバマ米前大統領が年頭教書演説で紹介。
いよいよ日本で治験が始まる!
米国での治験結果、15人中7人の進行がんが消えた、


「光を当て、がん細胞だけを破壊する。がんの8~9割は治せるようになると思います。
副作用もほとんどありません。がんはもう怖くない、と患者の皆さんが言えるようにしたい」
――小林久隆(米国立衛生研究所主任研究員)

● 米国で画期的ながん治療法を開発する日本人研究者・小林久隆さん。
● がん細胞に結びつき、近赤外光を当てると細胞を破壊する薬剤を開発。
● 薬が起こす「物理化学的」な作用で狙ったがん細胞だけを破壊する。
● 治療によって免疫活動が活性化、がんを消滅させる。
● 動物実験では、がんを守る免疫細胞を攻撃することで、全身の転移がんも消えた。
● 従来の手術・抗がん剤・放射線と違い、副作用はほとんどない。
● 外来治療で入院不要。治療費は安くできると想定。
● 最初の治験で、進行がん患者7人のうち4人のがんが消滅した。


 

目次
I 光免疫療法とはどんな治療法か
II 最初の治験の結果をみる──進行がん7人中4人のがんが消える
III これまでのがん治療法の有効性
IV 光免疫療法の開発物語
V 途方に暮れるがん患者たち
VI 小林久隆「光免疫療法」の今後を語る(聞き手/永山悦子)

 

著者プロフィール
永山 悦子  (ながやま・えつこ)(著)
1968年東京都生まれ。
1991年慶應義塾大法学部法律学科卒、毎日新聞社入社。
2002~2016年科学環境部。その間、がん、生活習慣病、再生医療、生命倫理などを主に担当。
2016年4月から1年間、医療福祉部副部長。がん対策基本法成立10年を検証する長期連載を担当する。
2017年4月より編集編成局編集委員。
2013~2015年厚生労働省がん対策推進協議会委員を務めた。
共著に『がんに負けない』(毎日新聞社)、『「理系」という生き方 理系白書2』
『迫るアジア どうする日本の研究者 理系白書3』(いずれも講談社文庫)など。

小林 久隆(こばやし・ひさたか)(協力)
1961年兵庫県西宮市生まれ。
1987年京都大医学部卒。
放射線科医として国立京都病院(現・京都医療センター)で放射線の診断と治療、内視鏡、病理などの臨床を経験する。
1995年京都大大学院を修了。医学博士。米国立衛生研究所(NIH)臨床センターフェロー。
2001年NIH・米国立がん研究所(NCI)シニアフェロー。
2004年からNIH・NCI分子イメージングプログラム主任研究員。
2014年NIH長官賞受賞。光免疫療法の研究開発により4回のNIH Tech Transfer Awardを受賞。
第38回日本核医学賞受賞。

 

はじめに
薬を注射し、がんのある場所に光を当てるだけで、がんが治る──。そんな画期的ながん治療法の実用化に向けた動きが加速している。

国民の2人の1人ががんになり、3人に1人ががんで死ぬ日本。医学の進歩によって、がんは「不治の病」から「治る病」になってきた。しかし、いまだにさまざまな治療に挑戦しながら、志半ばで世を去る人は少なくない。そのような患者たちにとって、がん細胞は手強い難敵であり、絶望的な気持ちでがんと向き合うことになる。だから、今は治せないがんを、いかに治せるようにするかが、がん治療研究の核心となる。

「光免疫療法」と呼ばれる画期的ながん治療法を開発したのは、米国立衛生研究所(NIH、National Institutes of Health)主任研究員の小林久隆さん(55)だ。若い頃から放射線科医としてがん治療に携わる中で、力尽きる患者を多く見てきた。「がんはもう怖くない、と患者の皆さんが言えるようにしたい」。そんな夢を20年以上かけて追い求めてきた。

従来のがん治療の手術、放射線、抗がん剤治療では副作用を避けられない。そこで、小林さんはがん細胞だけをピンポイントで攻撃し、周囲の正常な細胞には影響を与えない治療法を開発することを目標に据えた。そして、がん細胞の性質や特徴をとことんまで突きつめ、がん細胞の細胞膜を近赤外光を当てることで破壊し、がん細胞を確実に殺す新手法を発明した。マウスの実験でがんがなくなる高い効果が確認され、2015年に米国で始まった実際のがん患者を対象にした治験でも「想定通り」(小林さん)の結果が出始めているという。これまでの治療では治らなかったがんに効果がある可能性が高まっているのだ。

小林さんが学会などの発表で使うスライドを見ると、患者のがんが、短期間でみるみるなくなっていく過程が分かる。その様子は「これまでに誰も見たことがない」(小林さん)がんの死に方だという。痛みも副作用もほとんどなく、受けた患者は「また受けても良い」と話すほどだ。

私が小林さんに初めて出会ったのは2007年。それ以降、小林さんの研究を継続して取材してきた。以前から、がんの新たな治療開発を目指す医学研究は取材していたが、小林さんの研究はそれらと一味も二味も違った。「本当にヒトでも使えるのだろうか」と疑問に感じる研究も多い中、小林さんの研究は方向性が明確で、戦略的だった。説明も論理的で、何よりも分かりやすかった。最初に取材したのは、がん細胞だけを光らせる手法の開発。続いて、がん細胞をピンポイントで攻撃する治療法、最近は実用化に向けた取り組みへと広がっている。医学研究では、動物実験レベルの基礎研究の成果を患者が使えるようにする実用化に苦労することが多いが、小林さんの場合は、驚くほど順調に進んでいる。さらに、がん治療という医療分野の視点に加え、新たな科学を切り開く面白さにもあふれている。

本書は、小林さんのゴールを見据えた緻密な戦略や、医学・化学・物理学など多分野融合の醍醐味、偶然から見つかった「切り札」など、光免疫療法発明のドラマチックな現場と、米国で進む治験の最新情報を紹介する。小林さんへのインタビューでは、光免疫療法の治療対象となるがんの種類、治療費用、日本での治験実施の見通しなど、がん患者の皆さんの誰もが知りたいテーマや、日本ではなく米国で研究を続けている理由などを聞いた。

世界中のがん患者が、小林さんの研究の進展を心待ちにしている。2017年6月には自らの乳がんの闘病を発信し続けたフリーアナウンサーの小林麻央さんが、34歳の若さで亡くなった。彼女のように志半ばで世を去らねばならない患者の皆さんの期待はなおさらのことだろう。

「がんはもう怖い病気ではない」。小林さんの研究をきっかけに、そう言える時代が夢物語ではなくなりつつあるのかもしれない。その時代への扉を開いてみようと思う。