Loading...

      

Seitosha Publishing

2018年11月のエントリー 一覧

9784862281012.jpg著者:和田春樹
ISBN:978-4-86228-101-2 C0031
定価1500円+税 188ページ
ジャンル[外交・国際問題]
発売日:2018年11月22日


紹介
安倍政権のアキレス腱、拉致問題。
安倍政権はいかにして、制裁を強化すれば北朝鮮が崩壊するという佐藤勝巳氏ら「救う会全国協議会」に支配されるようになったのか。

「拉致問題は日本の最重要課題」「拉致問題の解決なしには国交正常化はない」「致被害者の全員生存・全員帰国」を掲げ、硬直する『安倍三原則』。
これに固執し続ける限り、金正恩委員長と会談は不可能。

・拉致問題の歴史と被害者・家族たちの過酷な運命を改めてふりかえる
・小泉元首相の平壌宣言による前進と、その後の決裂
・転換の時を迎えた日朝関係。平和と協力の新時代を開くためには、実行可能な解決方法、可能な限りの事実の解明に基づいた新しい関係が必要


「発想の転換だ! 歴史的背景から説く。全員生存・帰国を唱える安倍首相。拉致問題存続が政権の生命線では実現不可能」──蓮池 透〈元家族会事務局長〉

「この10数年、日本は変質した。原因の一つとなった日朝関係の全貌を知るのに本書は最適のテキストである」──青木 理〈ジャーナリスト〉



目次
I あらためて拉致被害者17人の悲痛な運命を考える
II 日朝首脳会談の成功と逆転
III 再度の首脳会談も空しく終わった
IV 敵対行動開始の安倍3原則
V 安倍3原則がストックホルム合意の実行を阻んだ


著者プロフィール
和田 春樹(わだ・はるき)

東京大学名誉教授。1938年生まれ。東京大学文学部卒業。
著書『金日成と満州抗日戦争』(平凡社、1992年)『朝鮮戦争全史』(岩波書店、2002年)
『朝鮮有事を望むのか』(彩流社、2002年)『北朝鮮本をどう読むのか』(共編著、明石書店、2003年)
『検証日朝関係60年史』(共著、明石書店、2005年)『日露戦争 起源と開戦』(上下、岩波書店、2009-2010年)
『拉致問題を考えなおす』(共編著、青灯社、2010年)『北朝鮮現代史』(岩波書店、2012年)
『平和国家の誕生』(岩波書店、2015年)『スターリン批判1953~56年』(作品社、2016年)
『アジア女性基金と慰安婦問題』(明石書店、2016年)『米朝戦争をふせぐ』(青灯社、2017年)


まえがき
 日朝国交促進国民協会は二〇〇〇年九月に設立された。会長は村山富市元総理である。創立以来すでに一八年が経過したが、国民協会の活動は貧弱な域を出ることなく、日朝国交はいまだ実現していない。
 二〇一六年、一七年には、米朝の対立が極限に達し、われわれは米朝戦争が起こるかもしれないという恐怖を味わうまでにいたった。安倍首相がその状況の中で、「すべての選択肢がテーブルの上にあるとする米国の政策を完全に支持する」と言い、朝鮮有事のさいの米国の軍事行動に協力する姿勢を示したことは、われわれの憂慮を強めるばかりであった。
 だが、極限にまでいたった対立の瀬戸際で、トランプ大統領と金正恩委員長は危機の果てをみすえて、踏みとどまった。そして、文在寅韓国大統領の先導で、平昌オリンピック大会を契機に、歴史的なシンガポール首脳会談に向かったのである。対話と協力を通じて、新しい米朝関係、朝鮮半島の完全なる非核化をつくり出す、苦しみと希望がまざりあう新時代がはじまろうとしている。
 中国も、ロシアも、この過程に参加している。日本も参加しなければならないし、日本が参加して、支えなければ、過程の進展がおぼつかない。だのに、安倍首相は急変した事態の中で立ち往生している。安倍首相は金正恩委員長に会いたいと言っても、会うことができず、トランプ大統領に拉致問題を金委員長にとりついでくれるように頼むだけであった。このままいけば、来年はじめにトランプ大統領が二回目の米朝首脳会談を行うさい、拉致問題をとりあげてほしいと、ふたたび懇願することになるだろう。
 安倍首相は金正恩委員長に会談することを本心で願っているのなら、両国が共通に課題とする日朝国交正常化を進める交渉を行いたいと申し入れる他はない。拉致問題は、日朝国交正常化を進める交渉の中でのみ、交渉することができるのである。
 だが、安倍首相は、このときにいたっても、金委員長と会って、拉致問題を解決したいとくりかえすばかりである。それも当然のことである。安倍首相は、拉致問題への取り組みによって首相になった人であり、二〇〇六年に最初の内閣で、拉致問題が日本の最重要問題であると宣言し、内閣挙げて拉致問題対策本部をつくり、安倍三原則を打ち出して、拉致被害者全員を生きたまま取り戻すという努力を開始したからである。二〇一一年に自民党総裁、日本国首相にカムバックしたさい、被害者家族に対して、「なんとか拉致問題を解決したいという使命感」をもって、「もう一度総理になれた」と語った人であった。安倍氏はこのように「拉致ファースト」の政治家なのである。
 安倍首相がはじめた日本の対北朝鮮放送「ふるさとの声」は、二〇〇七年七月九日から今日まで、「拉致問題が国家主権と国民の生命安全に関わる重大な問題である」、「その解決なくしては北朝鮮との国交正常化はないとの方針を決定し」たと毎日六回放送してきた。拉致問題で北朝鮮を徹底的に追い詰めるというこの政策は、「すべての選択肢がテーブルの上にある」という米国の軍事的威嚇政策に同調して、核問題で北朝鮮を徹底的に追い詰めるときまでは、調和があり、矛盾が露呈しなかった。
 しかし、トランプ大統領と金正恩委員長が握手して微笑んでいる大きな写真の前では、安倍首相の「拉致ファースト」政策は完全に行き詰まり、お手上げになってしまった。安倍首相は「拉致ファースト」政策、安倍三原則を捨てないかぎり、金正恩委員長と会談することはできないであろう。金委員長と会談ができなければ、拉致問題を進展させる交渉はできない。交渉しなければ、解決はありえないのは明らかだ。かつては、米朝戦争が起こって、自衛隊が北朝鮮に入り、拉致被害者を救出してくるということを夢見た人がいたようだが、いまやそのような夢を見ること自体が不可能になったのである。
 安倍首相の「拉致ファースト」政策、安倍三原則は、日本国家の方針であり、日本国民が支持してきたものであるとすれば、国民がこの政策、この原則を見直さなければならないと言わねばならない。本書はそのために書かれた。
 日朝国交促進国民協会は二〇〇八年一二月から翌九年五月までに一〇回の連続討論「拉致問題を考える」を開催し、その成果を二〇一〇年に蓮池透・和田春樹・菅沼光弘・青木理・東海林勤『拉致問題を考えなおす』(青灯社)として出版したことがある。
 このたびは、二〇一八年六月二九日から七月二七日まで毎週金曜日夜三時間の連続講座、理事和田春樹の「拉致問題についての五講」を開催した。第三回には、元民主党衆議院議員首藤信彦氏の講義も行われた。全五回の講義の記録が参加者の一人の献身的努力でまとめられた。和田がそれに大幅に加筆、修正を加えて、本書となった。首藤氏の講義は感銘深いものだったが、刊行の都合で、収録できなかった。また質疑も割愛せざるをえなかった。
 本書が、拉致問題について国民が今一度考え直すのに助けとなれば幸いである。