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Seitosha Publishing

副題:国家の闇へ
 

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著者:山岡淳一郎

ISBN:978-4-86228-093-0 C0036

定価1600円+税 240ページ

発売日:2017年4月26日

 

紹介

日本を震撼させた、名門企業・東芝の転落劇。
その元凶、原発を拒めない国家の闇に迫る。

・原子力産業と核戦略の「日米一体化」という名目の対米従属
・推進派が固める「原子力ペンタゴン(五角形)」体制の盤石さ
・原発は核物質の宝庫。それを狙うテロリストに、無防備な日本
・戦後の政治家たちに潜在的に受け継がれてきた核武装の誘惑
・フクシマ発の脱原発、自然エネルギーによる自立の道が見えてきた!

気鋭のジャーナリストが、経済人・官僚・政治家・福島を取材して明かす、
原発の闇と地元の脱原発への光!
渾身のノンフィクション

 

目次

I 東芝崩壊──原発産業「日米一体化」の罠
II 原子力ペンタゴン──政・官・財・学・報の岩盤
III テロリストが原発を攻撃する日──プルトニウムの呪縛
IV 核武装の野心──孤立する日本
終章 地元の再興──民意は燃えている

 

著者プロフィール

山岡 淳一郎  (ヤマオカ ジュンイチロウ)

1959年愛媛県生まれ。ノンフィクション作家。東京富士大学客員教授
著書『長生きしても報われない社会―在宅医療・介護の真実』『原発と権力』『インフラの呪縛』(ちくま新書)
『気骨―経営者土光敏夫の闘い』『国民皆保険が危ない』(平凡社)
『後藤新平―日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社文庫)
『医療のこと、もっと知ってほしい』(岩波ジュニア新書)ほか

 

まえがき

科学技術が発達すると、私たちは自分自身の能力も高まったかのように錯覚してしまう。むしろ現代人個々の判断力や、将来を見すえた「生きる力」は、昔の人に比べて衰えているのではないだろうか。平穏な生活がいつまでも続くと信じ、崖っぷちに追い込まれていても気づかない。危機を察知する能力は衰えたようだ。私も、あなたも……。

原子力発電の危険さは東京電力福島第一原発事故によって世界中に知れ渡り、歴史に刻まれた。事故後も原発の巨大なリスク(予想どおりにいかない可能性)は高まりこそすれ、下がってはいない。太平洋の底のプレート境界の沈み込み帯、南海トラフではいずれ巨大地震が起きる。過去には東海、東南海、南海の3地震が連動して発生している。政府の中央防災会議は、南海トラフ巨大地震が勃発すれば、「東日本大震災を超える甚大な人的・物的被害が発生し、我が国全体の国民生活・経済生活に極めて深刻な影響が生じる、まさに国難とも言える巨大災害になる」と明示している。

巨大地震の発生で、静岡県御前崎市の浜岡原発や、愛媛県伊方町の伊方原発、鹿児島県薩摩川内市の川内原発などがどれほどの激震と津波を受けるのか、正確に見極めるのは難しい。30年以内に南海トラフでマグニチュード8~9クラスの地震が発生する確率は70%とされる。今朝オギャーと生まれた赤ん坊が働き盛りを迎える前に国難が襲いかかる確率は高い。陸地には無数の活断層が走っており、そのズレによる地震も頻発している。

政府は原子力規制委員会が安全と認めた原発は再稼働させる方針だが、原理的に死の恐怖を拭えない人間に安全の閾値(しき いち)はない。これで大丈夫とは言い切れない。だから世界中で原発の安全対策費が膨張し、その負担配分をめぐって電力会社や原子炉メーカー、建設会社が訴訟合戦をくり広げる。工事が遅れてさらに工費が増える。悪循環を断ち切るには、原発建設から撤退するしかない。実際に原発に見切りをつけた重工産業は成長軌道にのっている。

原発のリスクが計り知れないのは、万一、過酷事故が起きると、人間が制御できなくなるからだ。石油や天然ガスのエネルギープラントを運営する専門家は、「最悪の事故に備えて施設を設計するのが大原則。しかし原発は事故が起きたら放射能で人間が近寄れなくなるのを承知で建てている。根本的な発想が間違っている」と口をそろえて言う。

近年は、原子力施設を狙った「核テロ」の危険も高まっている。2016年3月にベルギーで起きたテロの最初のターゲットは原子力施設だった。テロリストは事前に核施設に勤める技術者の動向を監視カメラで撮影し、原発襲撃をくわだてていたという。核テロには、原発や関連施設への攻撃の他にプルトニウムなどの核物質、放射性物質の窃盗も含まれる。冷戦構造が崩壊し、旧ソ連邦が解体される過程で現実に核物質の盗難が起きている。

このような状況で、日本は核燃料サイクルの再処理で約48トン、核兵器6000発分の在庫プルトニウムを溜めこんだ。米国はじめ世界各国から疑念のまなざしを向けられている。日本は、核武装に踏みだすのではないか、と……。

原発に伴うリスクは、防災と人命、経済、自治、外交、安全保障と多方面に広がり、日本の針路に立ちふさがる。このリスクを取り除くには原発推進路線から脱するほかなく、政治のよりどころの民意は明瞭だ。過半の日本国民が原発からの脱却を望んでおり、新たな選択は決して難しくないのである。

朝日新聞が2016年10月に実施した電話による全国調査では、原発の運転再開について「反対」が57%、「賛成」は29%。TBSの15年3月調査によると、「反対」57%、「賛成」35%。毎日新聞の16年3月の世論調査でも、原発再稼働への「反対」が53%、「賛成」30%。メディアが違っても「反対」が過半数を占める。概ね国民の5~6割が再稼働に反対し、約3割が賛成。1割が「わからない」というバランスだ。

政治の「勝負勘」に長けた小泉純一郎元首相は、17年3月2日、郡山市の講演で「日本人はピンチをチャンスに変える民族性がある。自然エネルギーの導入を進め、危険な原発を即刻ゼロとし、発達できる国をつくっていくべきだ」と語った。震災後、脱原発に転じた小泉元首相は「(在任中)専門家や電力会社の言うことを信じていた。引退し勉強して、うそと分かった」「選挙の最大の争点は原発だ」と言い続ける。16年10月19日の共同通信のインタビューでは、東日本大震災の支援活動に参加した元米兵の被曝問題を、こう語った。

「『トモダチ作戦』に参加した元兵士が病気だと聞き、今年五月に十人と米カリフォルニア州サンディエゴで会った。元兵士は原子力空母を東北沖に停泊させて活動していた。一、二年たち鼻血が止まらず内臓に腫瘍ができた。空母は海水を真水に変えてシャワーや料理に使う。外部と内部の両方の被ばくだ。妊娠していた女性は障害児を産み、(その子は)しばらくして亡くなった。みんな日常生活が送れずに除隊せざるを得なくなり(医療保険がないため)高額の医療費を取られている」

小泉元首相は基金を立ち上げ、元米兵たちを支援している。

巨大なリスクをはらむ原発を閉じ、方向転換を望む声は巷に溢れる。原発立地自治体では、老朽原発の「廃炉」が現実的課題に変わってきた。刻々と時は流れる。産業界は本来の立ち位置に戻り、社会に貢献すればいい。以前、東京電力の元幹部に、もしも国が原発をやめたいと言ってきたらどうかと問うと、彼は個人的意見とことわって「そりゃ解放される。断然、動きやすくなる」と即答した。にもかかわらず、日本政府は原発を拒めない。

なぜ日本では民意が通らず、半世紀以上前に定められた原発国策が墨守されるのか。廃炉による電力会社の財務悪化は強調されるのに分散型エネルギー革命は過小評価されるのか。

本書では、原発を拒めない国家の闇に現代史的観点から光を当て、その構造を明かしたい。東芝を崩壊させた「原発ビジネスの罠」を入口にして、原発を推進させる政官財学報=「原子力ペンタゴン」の成り立ち、「核テロリズム」の系譜、保守政界の奥に継がれる「核武装の野心」へと書き進めていく。国策にすがりつく原発立地自治体の再興については、長いあとがきで触れよう。立地自治体が自立すれば状況は劇的に変わるだろう。

核兵器開発の副産物として生まれた原発は、権力者に軍事と経済、ふたつの力をもたらしてきた。だが、人間が制御できない技術は暴走し、権力の基盤を深く、静かに蝕んでいく。旧世代の原発産業は音を立てて崩れている。この先に何が待ち受けているのか、想像をめぐらせながら、いまを読み解いていこう。