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Seitosha Publishing

2017年4月のエントリー 一覧

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著者:トゥルゲーネフ
編者:金原 瑞人
ISBN978-4-86228-098-5 C0082
定価 1,200円+税 208ページ
ジャンル[英語読み物]
発売日 2018年4月26日


紹介
19世紀ロシア文学を代表する永遠の名作を英語で読む!

奇妙な美女ジナイーダをめぐり、貴族社会の悲哀や
父子の確執、青春時代の感傷と滑稽さなどを描いた自伝的中編。

・金原瑞人の詳しい語注で辞書なしに読める。
・多読に最適
・原文すべてを英訳で収録

 

目次
まえがき(金原瑞人)
First Love
あとがき(金原瑞人)

 

著者プロフィール
イワン・トゥルゲーネフ (著)
ロシア中部オリョールに、地主貴族の息子として生まれる(1818-1883)。
『猟人日記』(1847-51)で農奴制を批判し投獄される。父子の世代対立や農奴解放などの社会的テーマ、および自伝を背景にした作品を多く残す。日本では二葉亭四迷によって翻訳・紹介され、大きな影響を与えた。代表作『余計者の日記』(1850)、『貴族の巣』(1859)、『父と子』(1862)など。

金原 瑞人  (かねはら・みずひと) (編)
現在、法政大学教授、翻訳家。ヤングアダルト小説はじめ海外文学の紹介、翻訳で著名。著書『翻訳のさじかげん』(ポプラ社)ほか。訳書『豚の死なない日』(ロバート・ニュートン・ペック、白水社)『青空のむこう』(アレックス・シアラー、求龍堂)『国のない男』(カート・ヴォネガット、NHK出版)『月と六ペンス』(サマセット・モーム、新潮文庫)ほか多数。

 


まえがき
このシリーズもこれで8冊目。
そのうち英語の作品に注を付けたものが5冊ある。
『The Box』(ブルース・コウヴィル)
『征服されざる者、サナトリウム』(サマセット・モーム)
『キリマンジャロの雪、フランシス・マカンバーの短く幸せな生涯』(アーネスト・ヘミングウェイ)
『ストレンジ・カントリー』(アーネスト・ヘミングウェイ)
『南からきた男、ほかロアルド・ダール短編集』(ロアルド・ダール)。
英語以外の言語で書かれた作品の英訳のテキストに注を付けたものが2冊。
『変身』(フランツ・カフカ)
『異邦人』(アルベール・カミュ)
そして、今回はこの続きでイワン・トゥルゲーネフ(ツルゲーネフ)の『はつ恋』を取りあげることにした。
『変身』や『異邦人』のまえがきでも書いたのだが、ドイツ語やフランス語で書かれた作品は日本語訳よりも英訳のほうが原文に近い。アルファベットで表記されるし、文法構造も近いし、単語の語源もかなり共通している。ロシア語も文字の形は違うものの、似たようなものだ。
たとえば、同時通訳の方からこんなことをうかがったことがある。
「英語から日本語への同時通訳は非常に疲れる。内容にもよるが、ふたり交替で通訳をしていてもしんどいことがあるくらいだ。それにひきかえ、ヨーロッパの言葉同士の通訳なんて、びっくりするくらい楽。こないだ英語をフランス語に同時通訳していたおばさんなんか、編み物しながらやってた」
多少の誇張はあるにせよ、そのくらいの差はあると思う。
ただ、日本のフランス文学やドイツ文学の専門家にいわせると、ヨーロッパ言語同士の翻訳は言葉や文法構造が似ているので、逆に雑な翻訳になってしまうことがあるらしい。まあ、そういう難点はあるとしても、言葉と言葉の壁は、比較的、低くて薄い。ということは、訳者の力量などにもよるだろうが一般的にいって、ヨーロッパ言語の作品は日本語訳より英訳のほうがオリジナルに近い。
というわけで、英語の好きな人や英語のできる人は日本語訳で読むより英語で読んだほうがいい。
①日本語訳より原作に近いものが読める。
②日本語訳で読むより時間がかかるぶん、細かくじっくり味わうことができる。
③英語力がつく。
そんなわけで、今回はトゥルゲーネフの『はつ恋』の英訳本に語注をつけてみた。ただし、高校や大学のリーディングのテキストとちがって、文法的な説明は最小限にとどめた。それは英文を読むのに文法は必要ないからではない。文法は言語の約束事をコンパクトにまとめた道具で、旅行をするときの地図のようなものだ。しっかりした地図を持っているかどうかは旅に大きく影響する。しかし、この本の目的は、英文と注をうまく使いながら、作品を読み、味わうことなので、文法的な説明は少なくしてある。
また、高校や大学のリーディングと違って、少し読みづらいと思う。というのは19世紀の作品なので、使用されている言葉が古いものもあるし、そもそも言い回しが古い。しかし、慣れてくるとそれが楽しめるようになるので、途中で放りださず、最後まで付き合ってほしい。
いかにも19世紀ロシアらしい貴族社会で展開される恋愛物語は、いま読むと、妙にナイーブなところと、ロマンチックなところが入りまじって不思議な感じがする。しかし、いったん話のなかに入ってしまえば、あとは主人公の気持ちが痛いほど迫ってくると思う。
この作品は近代ロシア文学の古典というか、近代ヨーロッパ文学の古典といってよく、日本でも昔からよく読まれてきた。また、翻訳も何種類か出ている。今回、注釈をつけるにあたっては、沼野恭子訳と米川正夫訳を参考にさせていただいた。また、途中で出てくるフランス語については、翻訳家の河野万里子さんにご協力いただいた。