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Seitosha Publishing

2014年10月のエントリー 一覧

副題:若者と国家
自分で考える集団的自衛権.jpg著者:柳澤協二
ISBN:978-4-86228-076-3 C0031
定価 1,400円+税 224ページ
ジャンル[政治・社会]
発売日:2014年 10月17日


紹介
元防衛官僚、現場を知る第一人者が日本の若者たちへおくる、自ら考えるための安全保障論。
集団的自衛権行使の危険性と日本のおかれた現状を考察する。

  • 尖閣列島で中国と戦争になったとして、最初の段階では日本のほうが優勢かもしれない。しかし、2度目、3度目になれば、 どうなるかまったくわからない。
  • 自衛隊を派遣したイラク戦争後、アメリカからはアフガニスタン等でのさらなる協力を当時の著者らにつぎつぎ要請してきた。 日米同盟によるこの「同盟疲れ」の状況下、米国追随をどこまで続けるのか。日本の自立のため、日米同盟の「バカの壁」を打ち破るバランス感覚が求められる。
  • 日本は米軍基地の提供などで、現在でも米国の世界戦略に大きく貢献している。
  • 集団的自衛権をもてば、都合の悪いときは同盟関係に参加しないというわけにはいかない。また、抑止力がきいて平和になる、 ということもありえない。
  • 日本が敵国になり、攻撃される可能性が生じるということ。
  • もし米中が戦い、集団的自衛権で日本が米国の空母を守るため中国の潜水艦を攻撃すれば、日本全土が中国のミサイル攻撃の対象になる可能性がある。
  • 現地人に銃を向けない、守るべき貴重な「ジャパン・ブランド」の国際協力と国家像を考える。


目次
1. 第一歩からの安全保障
2. 尖閣問題をどう考えるか
3. 尖閣で何が起きるか
4. 北朝鮮のミサイルをどう考えるか
5. 日米同盟のバカの壁
6. 同盟疲れ
7. 官僚と政治家
8. 国家像が見えない安倍政権
9. ジャパン・ブランドを求めて
10. 集団的自衛権と日本の将来


著者プロフィール
柳澤協二(やなぎさわ・きょうじ)
1946年東京生まれ。70年東京大学法学部卒業、防衛庁(当時)に入庁。
防衛審議官、防衛庁長官官房長などを経て、2002年防衛研究所所長。
04~09年まで、小泉、安倍、福田、麻生政権で内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)。
現在、NPO法人「国際地政学研究所」理事長。
防衛官僚時代の反省をふまえて、米国追随一辺倒ではない日本のあり方を模索している。
著書『亡国の安保政策―安倍政権と「積極的平和主義」の罠』『検証 官邸のイラク戦争―元防衛官僚による批判と自省』(以上、岩波書店)『抑止力を問う』(共著、かもがわ出版)ほか
 


あとがき
 私は約四〇年間、防衛官僚として仕事をしてきました。退職してから五年がたちます。この五年の間にも、政権交代が二回あり、中国・韓国との関係が悪化しています。今日もまた、「イスラム国」に対する米軍の爆撃のニュースが伝えられています。世の中は心配ごとの方が多くなっている。私は、官邸勤務の間に二度、「防衛計画の大綱」を作る仕事をしてきましたが、今日の状況を見れば、それが世界の平和や日本の安全に役立っていたのだろうか、率直に反省せざるを得ません。一番の反省点は何かと言えば、世の中の流れの本質を正確に理解できていなかったことだと思います。つまり、日本がどのように生きていけばよいのか、真剣な格闘が足りなかったのだと思います。給料をもらいながら仕事として安全保障を考えてきた人間がそのようなことでは誠に申し訳ない。何とかしなければいけない、というのが、私を動かしている最大の動機だと感じています。
 その中で、今日の安倍政権による集団的自衛権解禁の議論を聞いていると、一体何をしたいのか、日本人が乗ったアメリカの軍艦を守ってやることが、どうやって世界の平和につながって行くのかが分からない。安倍さんに言わせれば、「強ければいいんだ」ということだとは思いますが、それで日本は本当に強くなれるのか、いつまで強くあり続けることができるのか、強いだけで問題は解決するのか、といった疑問がいっぱいです。必然性のない政策、身の丈に合わない背伸びした政策に持続性はありません。持続性のない政策は、アベノミクスもそうかもしれませんが、いずれ破たんします。
 私より世代の若い専門家は、あっさりと、「集団的自衛権、そりゃ手段として持っていた方が、ないよりはいい」という反応を示す場合が多い。しかし、長年にわたって、アメリカはどう考えるのか、自衛隊はどのようにして動くのかといった実際を見てきた私としては、自衛権というものは敵との戦いを前提としたものですから、「車の免許を持っていた方が何かと便利」という程度の軽い気持ちで使えるものではないことを、身にしみて分かっているつもりです。それは、集団的自衛権でなくとも、個別的自衛権でも同じことです。それなりの覚悟が要るということですね。
 それが、なぜ伝わらないのだろうか、どうすれば分かってもらえるのだろうかということに心を痛めています。経験し苦悩しなければ分からないことかもしれません。一方では、自分の経験や苦悩はあくまで自分のものであって、若い人たちにはそれぞれの人生も価値観もあって当然だと思います。人生にも、安全保障にも、ただ一つの正解はないのでしょう。しかし、こと戦争に関して言えば、経験しない方がいいに決まっている。というより、絶対してはいけない。そんなことを考えながら、思いつくままに自分の気持ちを率直に話してきました。
 できるだけ「専門用語」や複雑な論理を避けて話したつもりですが、しょせん私の考え、私の人格の表われですから、分かりにくいところ、あるいは共感できないところがあるだろうと思います。読者の皆さんのご批判によって、私自身の考え方を深めて行けたら、それは私の人生が豊かになることですから、これにまさる幸せはありません。